Fit&Gap(フィットアンドギャップ)分析とは?目的や進め方・要件定義との違いを解説

自社にERPシステムや基幹システムの導入を検討している場合、それらが自社に適合するかを判断する上でFit&Gap(フィットアンドギャップ)分析は有効な手段となります。システム導入は決して安価な設備投資ではないため、効果が少しでも高いものを選択するべきです。
Fit&Gap分析によってシステムの導入価値を測れれば、俯瞰的に判断ができるようになるため、システム導入で失敗する可能性を最小限に抑えられるでしょう。
本記事では、Fit&Gap分析とは何かから、実際に分析する際の進め方を解説します。
Fit&Gap(フィットアンドギャップ)分析とは
Fit&Gap(フィットアンドギャップ)分析とは、既存の業務プロセスや要件と、導入予定のシステムの機能がどの程度一致(Fit)しているか、または乖離(Gap)があるかを洗い出すための手法です。分析によって、導入予定のシステムのカスタマイズや業務の見直しが必要な箇所を明確にし、最適な導入方針を立てます。
システムが自社に適しているかどうかを判断するためだけでなく、導入に際して「どうすれば導入効果を高められるか」を判断する要素としてもFit&Gap分析は有効です。
最近の事例として、Fit&Gap分析は実際に地方公共団体のシステム導入でも活用されています。デジタル庁が推進する地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化プロジェクトにおいて、各団体の業務との整合性を確認するためにFit&Gap分析が活用されました。
Fit&GapとFit to Standardの違い
「Fit to Standard」とは、業務プロセスをパッケージシステムの標準機能に合わせて運用を見直す考え方です。特にERP(統合業務システム)などの導入時に多く採用されており、業務プロセスをシステムに合わせることでシステムのカスタマイズを最小限に抑えられます。これにより、導入期間や保守コストの削減は期待できます。
一方で、Fit&Gap分析は「業務とシステムのギャップ」を客観的に洗い出すことが目的であり、Fit to Standardのように業務プロセスを標準機能に合わせることまでは範囲としていません。分析後に業務プロセスの改善は行うかもしれませんが、それはあくまでも分析結果から行う行動であり、Fit&Gap分析の目的ではありません。
Fit&Gap | Fit to Standard | |
---|---|---|
目的 | 業務要件とシステム機能の適合度を確認し、ギャップを把握すること。 | システムの標準機能に業務を適合させ、最小限の変更で導入すること。 |
進め方 | 要件定義に基づき現行業務とシステム機能を比較し、ギャップ対応策を検討。 | 標準機能ベースの業務フローを提示し、それに合わせて業務変更を検討。 |
メリット | ギャップに応じた柔軟な対応が可能、現行業務の強みを活かせる。 | 導入コストや期間を抑制、将来的なバージョンアップが容易。 |
デメリット | カスタマイズが増える可能性がある。全体最適が難しい場合も考えられる。 | 現場に業務変更の負荷がかかる、柔軟性に欠けることがある。 |
Fit&Gap分析とFit to Standardは、それぞれ適した場面が異なります。Fit&Gap分析は、自社独自の業務や業界特有のプロセスが存在する場合に有効で、現場の実態を尊重しつつ、必要に応じた業務改善を図れます。
一方、Fit to Standardは、ERPやクラウド型システムなどを短期間で導入したいケースに適しており、業務の標準化や導入・運用コストの最適化を重視する場合に効果を発揮するでしょう。
重要なのは、どちらが優れているかではなく、自社の業務特性やシステム導入の目的に応じて適切に使い分けることです。
Fit&Gap分析の成果物
Fit&Gap分析の取り組みイメージを明確にするためにも、成果物の例を紹介します。ERPの導入を想定した成果物サンプルであるため、これから導入を検討している人は参考にしつつ自社に合わせて可変させましょう。

上記サンプルでは、業務ごとに「要件とシステム機能の適合性(Fit/Gap)」を判断し、Gapがある場合にはその内容と対応方針(例:アドオン、業務変更、運用回避など)を明記しています。また、対応の優先順位や関係部署も明示することで、後続フェーズでのプロジェクト管理に役立つように作成しています。
サンプルはあくまで一例ですが、ゼロから作成するのは手間がかかるため、まずはこのテンプレートをベースにし、自社の業務に合わせてカスタマイズしていく方法をおすすめします。
Fit&Gap分析の進め方
前項で紹介した成果物は分析を可視化する上で重要なものですが、そもそもの進め方を理解していなければ、正しい分析や活用にはつながりません。以下4つのステップを正しく理解し、順に進めていくことが基本です。
【Fit&Gap分析の進め方】
- システムの要件定義を行う
- 候補となるシステムを選定する
- 各システムの機能と業務プロセスを突合する
- 満たせない要件の対応方法を検討する
とくに注意したいのは、1の要件定義です。要件定義を曖昧にしたまま進めると、その後のギャップ分析が形骸化しやすくなります。また、3と4の工程では、業務現場のヒアリングと現実的な運用を踏まえた判断が求められるでしょう。
1. システムの要件定義を行う
Fit&Gap分析に先立ち、まず「何を求めるのか」を明確にしなければいけません。そのためにシステムの要件定義を行います。
定義する要件とは、業務で必要となる機能・処理・運用条件などを一覧化したものです。Fit&Gap分析はこれらの要件とシステム機能を照らし合わせる作業であり、要件定義自体とは目的が異なる点に注意してください。
要件定義では、部門横断でのヒアリングや、現行業務の棚卸しが重要。例えば「受注登録の際、得意先別単価が自動反映されるべき」といった具体的な条件を挙げることが、後の分析の精度に直結します。業務現場の「当たり前」を引き出さないと、具体的な条件提示には繋がりません。
2. 候補となるシステムを選定する
続いて、要件定義をもとに、要件を満たせる可能性のあるシステムの候補を選定します。ERPやSaaSなど選定対象はさまざまですが、自社業務との親和性やベンダーの支援体制、将来的な拡張性を加味して検討しましょう。
この工程で注意すべき点は「先入観にとらわれすぎないこと」です。例えば「大手が導入しているから安心」という理由だけで選ぶのではなく、必要な業務機能が備わっているかどうかを中心に比較することが重要。また、複数のシステムを比較する場合は、共通の項目で比較・評価を行うのが効果的です。
3. 各システムの機能と業務プロセスを突合する
候補に挙がっているシステムの仕様書やデモ環境をもとに、自社の業務要件とシステムの標準機能を照らし合わせていきましょう。業務項目ごとに「Fit(対応可能)」か「Gap(非対応)」かを判定し、Gapであればその内容と影響範囲を明記。
例えば「在庫管理においてロット別管理が必要だが、対象システムでは対応していない」場合、それが業務にどれだけ影響するのか、別途アドオンや運用回避で解決できるのかといった観点で整理します。判断の曖昧さを避けるため、部門ごとのレビューや現場での確認を並行して行うことがポイントです。
4. 満たせない要件の対応方法を検討する
Gapと判定された要件に対して、どのように対応するかを検討します。例として、代表的な対応方法には「アドオン開発」「業務側の運用変更」「要件の再検討」などがあります。それぞれの対応には、コスト・期間・将来の保守性といった観点からの評価が不可欠です。
例えば「得意先ごとの単価管理」がGapとなった場合、それをアドオンで対応するか、運用ルールでカバーするか、または業務側が妥協できるかを検討します。全要件に対応しようとするとコストが膨らむため、「本当に必要な要件か」を見極める姿勢が特に重要。優先順位付けと経営判断の視点は欠かせないでしょう。
Fit&Gap分析が不十分な場合に発生しやすいリスク
Fit&Gap分析が不十分なままシステム導入を進めてしまうと、実際の業務に適さないシステムが稼働し、想定外の問題が多発する可能性があります。
【Fit&Gap分析が不十分な場合に発生しやすいリスク】
- 業務プロセスに必要な項目がない
- 必要なデータを入力・出力できない
- 操作の工数がかかり過ぎて業務に悪影響を及ぼす
- 担当領域で部署間の摩擦が起きる
こうした問題は、プロジェクトの遅延や現場の混乱、結果的な再開発の発生といった深刻な弊害につながる可能性があります。防ぐためには事前の分析段階で丁寧に洗い出し・検証を行うことが重要です。
業務プロセスに必要な項目がない
Fit&Gap分析が不十分な場合、現場で使用している業務上必要な項目が新システムに反映されない事態が起こりえます。原因としては、要件の深掘りが不十分だったり、現場とのすり合わせをせずに分析を進めたりするのが考えられます。
例えば「製品ごとに保証期間を記録する」項目が現行で必須だったにもかかわらず、分析で拾われずに「新システムにその欄が存在しない」というケースです。結果、社内管理の混乱やクレーム対応の遅延など、後工程に大きな影響を及ぼすでしょう。
リスクを回避するには、現場の実務担当者へのヒアリングを徹底し、業務フローに紐づく入力項目や管理情報を丁寧に洗い出すことが重要。
必要なデータを入力・出力できない
Fit&Gap分析が浅いと、必要な情報がシステムに登録できない、出力できない、といった事態が発生します。これは「どのデータが、誰にとって、どのタイミングで必要か」という視点が抜けていた場合に多く発生します。
例えば、月次報告で必要な「部門別の原価集計」がシステムから直接出力できず、毎月エクセルで手作業対応になるようなケースです。これにより、担当者の業務負担が増えてミスの発生も増加するでしょう。
こうした問題を防ぐには、分析段階で「帳票・出力物・データ抽出要件」もセットで洗い出し、運用面での可視化と検証を行うことが重要です。
操作の工数がかかり過ぎて業務に悪影響を及ぼす
新システム導入によって操作が増え、逆に業務効率が下がるという事態も、Fit&Gap分析が不十分な場合に発生します。例えば、現行では一画面で完結していた処理が、システム導入後は複数画面を行き来する必要がある場合などです。
これは、現場での実操作の流れ(操作ステップ)を把握せずに、機能だけでFit/Gapを判断したケースに多く見られます。結果として、業務の停滞や現場からの不満噴出の原因になるでしょう。
防止するには、「操作フロー視点」での突合も行い、プロセスのなかで何が増え、何が減るのかを現場目線で検証することが重要です。
担当領域で部署間の摩擦が起きる
Fit&Gap分析で「どの業務を、誰が、どこまで担当するか」を曖昧にしたまま導入すると、業務の境界線が不明確となり、部署間で責任の押し付け合いや作業の二重化といったトラブルが発生します。
例えば「発注情報の入力を、営業がやるのか、購買がやるのか」が曖昧なままシステム運用を開始し、混乱が生じるといった事例です。これは業務分担の設計を分析フェーズで明確化していないことが原因として挙げられます。
このリスクを防ぐには、各業務の「担当者・部門・起点と終点」を明示し、責任と権限を文書化しておくことが重要。部署横断での合意形成を図ることが成功へのポイントです。
まとめ
Fit&Gap分析は、ERPシステムや基幹システムの導入を成功させるための重要なプロセスの一つです。業務との適合性を事前に確認することによって、無駄なカスタマイズや導入後の混乱を防ぎ、コスト・工数・運用面の最適化が図れます。
一方で、分析が不十分だと重大なリスクに直結するため、現場との連携と要件の深掘りを丁寧に行いましょう。自社に最適なシステム導入のために、Fit&Gap分析を有効に活用してください。
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